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介護マネジメント塾 ..................... 経営のツボ28
早 川 浩 士
(有)ハヤカワプランニング 代表取締役
2005年10月号
古に学ぶ経営者の資質の磨き方 L
「事上磨練(じじょうまれん)の心がけ」
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「仕事の中から自らを磨け」
「何の問題も生じないときは、仕事がスムーズにはかどります。ところが、いざ何か事にぶつかると思うように行かなくなります。どうしたらよいのでしょうか」
「凡事徹底」(注1)のことを記したら、このような質問が舞い込んできた。質問者は、いざという時、何もできなかったという苦い経験があったという。
「何の問題も生じないとき」こそ、「特に異常なし」という現場からの報告に注意を払う自らの身構え方から点検・確認が必要である。
「よかった。一安心」と思うのか、「本当かな」と感ずるのか。
そこには、大きな違いがある。
「利用者」一人一人の状態像は、皆異なる。
「利用者」の誰が、「異常なし」なのか。
また、スタッフの誰が、報告したのか。
スタッフの経験やスキルによっても報告は微妙に変わってくる。
このようなことに気づくことが、リーダーの仕事でもある。
仕事上の課題が一人一人のサービス提供表に凝縮されているとはいうものの、知識や学問を身につけただけで解決できないこともある。
改正介護保険の注目の一つ、小規模多機能型居宅介護は、従前の制度にはなかったサービスとはいえ、先駆的な取り組み事例は少なくない。地域によって直面する問題や課題が異なるものの、「熟慮断行」(注2)の経験を皆が持ち合わせている。
どのケースにも、語りつくすことのできない修羅場がある。土壇場に立たされたとき、湧き出る知恵と勇気と人の絆。これを乗り越えた先に「一皮むけた経験」が宿る。
「百の知識より、一つの実践」という言葉が飛び交う「常在学場」は、何事も現場主義という視点に立って取り組む「凡事徹底」からはじまる。
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「実践を通して自らを鍛錬せよ」
中国の古典『伝習録』には、「人はすべからく事上にあって磨錬し、功夫(くふう)を做(な)すべし。乃ち益あらん。もし只だ静を好まば、事に遭いて即ち乱れ、ついに長進なく、静時の工夫もまた差(たが)わん」とある。「事上磨錬(じじょうまれん)」の出自がこれ。(注3)
介護事業に置き換えるとこうなる。
リーダーは、要介護者である「利用者」と「その家族」の暮らしを支える仕事を通して、自らの事業所、とりわけスタッフのスキルを磨き上げてゆかなければならない。
現場からは「特に異常なし」との報告が少なくない。何もなければそれに越したことはない。しかし、「利用者」は、私たちの仕事を妨げる存在ではなく、仕事を遂行するための目的であるということを忘れてはいけない。
静時であるが故に、「利用者」へのアセスメントやケアプランができているのか、何気ない言動や振る舞いの一つ一つから、工夫があってしかるべき。
「凡事徹底」とは、事上に該当する仕事の上での目的が明確であり、その目的を遂行するために不断から磨錬する取り組み姿勢そのものが介護の質を上げることにつながる。
リーダーの資質を問いただすことが、サービスを提供する事業者の質の向上を図る近道である。
「過てば則ち改むるに憚(はばか)ること勿(なか)れ『論語(学而1)』」や「過ちて改めざる、是を過ちと謂う『論語(衛霊公15)』」と孔子の箴言を諳(そら)んじ、「人は、性懲りもなく同じような過ちや失敗を繰り返している」と高を括らないこと。
「事上磨練」は、わが身の備えを患(うれ)うる(注4)前の心がけを合図するための戒めの言葉でもある。
(注1) 本誌2005年8月号本欄を参照
(注2) 本誌2005年9月号本欄を参照
(注3) 本誌2005年4月号本欄を参照
(注4) 本誌2005年7月号本欄を参照
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